さらに魔術師パプアニの顔面と対角線上となる画面右下には幻想性豊かな狐と野鳥が配されているが、これはマルキーズ諸島の古代信仰を意味していると考えられている。本作で最も注目すべき点は画家の空想性と夢遊性に溢れた光と色彩の表現にある。
魔術師パプアニに用いられる強い原色的な赤色と濃紺の衣服は西洋絵画の伝統的な宗教的色彩と共通しているものの、そこから生み出される印象は全く異なるものであり、本作においてはゴーギャンが心象として抱いた魔術師の不可思議性や恐怖的感覚を見出すことができる。
また人物などが配される画面左側と動物達が配される右下、そして遠景として描かれる森林には比較的強い光彩が用いられており、さらに中景の灰褐色で表現される小川が光によって鈍く輝いている。これらの表現が明確な色面と互いに相乗し合うことで、本作中にある種の調和性と自然(又は原始)の不変的神秘性を与えている。
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