小船の上で会話する二人の男。本作は同時期に制作された『ポール=マルリの洪水』などと同様、1876年に起こったセーヌ川の大氾濫後のポール=マルリの情景を描いた作品である。
栗の木の中を進む一艘の小船。本作で表現される(洪水という)自然の驚異とそんな状況下でも逞しく生活する人々、作品全体から醸し出される静謐な雰囲気と詩情性は、6点制作された同画題の作品の中でも特に秀逸の出来栄えである。
濁色的でありながら軽快な色彩による川の状態表現。画面下部に広がるセーヌ川から溢れたポール=マルリを覆う水面に反射する、ゆらめく陽光の繊細で柔らかな表現や、やや大ぶりの筆触、川の状態表現は画家の様式的特徴が良く表れている。
清涼感と開放感に溢れた空の表現。画面の約三分の二の面積を使用される広々とした空の清涼感に溢れる鮮やかな色彩と空間的な開放感には、この洪水によって一変してしまったセーヌ川やポール=マルリの姿、そしてそこで生活する様々な人々の日常とは対照的に、何事においても犯されることのないある種の普遍性を感じさせる。